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非公開の航空券を入手してイスラエルからエジプトに渡った話(♯1 入手編)

 海外個人旅行者の間でその存在がまことしやかに囁かれる幻の航空会社があった。イスラエルのテルアビブとエジプトのカイロを結ぶ「エア・シナイ」である。

 

 格安航空券サイトでいくら検索しても現れないどころか航空会社の公式サイトもなく入手方法一切不明のこの航空券を購入し、搭乗した記録を記したい。暇なので。

 

 

 

 ※この話は2016年9月頃時点の情報のため、状況が変わっている 可能性があります。

 

 

 

 

 

 

 

エジプトとイスラエルに行ってみたい

 エジプトのピラミッドを見なければ死ねないと思い、2016年の夏休みに行くことにした。カタール航空でヨルダンのアンマンに入り、エジプトのカイロから帰る旅程を組んだが、間にどうしてもイスラエルを挟みたくなった。

 

 しかしこの辺の地域に少しでも興味を持つ人なら周知の通り、アラブとイスラエルは基本的に敵対関係にある。つまり、そもそも国境を通過できない、通過できなくはないが危険、危険性が低くても交通手段が貧弱、といった可能性があるのだ。

 

 で、調べた。

 

 

 

 

 

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 アンマン(ヨルダン)→エルサレムイスラエル)は陸路で比較的簡単に可能。危険性は低く安価で安定した交通手段が存在し、予約も不要。ただしミニバスを複数乗り継ぎ、国境での手続きも時間がかかるため面倒。

 

 イスラエル→カイロ(エジプト)はMazada Toursという会社がバスを運行している模様。ただし週3便ほどしかなく、政情不安定なガザ地区を迂回するため丸一日かかる。しかも調べるうちにシナイ半島はテロ組織が牛耳っているエリアがあり、外国人を狙ったテロが起こっているという情報があったので断念。外務省の海外安全ホームページでもこの辺だけ色が濃い。

 

 さてどうしたものか。エル・アル航空もエジプト航空も直行便を飛ばしていないし・・・ いや待てよ? エア・シナイがあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

エア・シナイとは

 イスラエルと周辺のアラブ諸国は敵対関係にあり、4度の中東戦争を含めて幾度となく紛争を繰り返してきた。ただしエジプトはアメリカの仲介のもと1978年にイスラエルとキャンプデービッド合意を結び、国交を樹立した。

 

 そんな中、両国間で定期便を相互に就航させることも決まり、イスラエルのエル・アル航空とエジプト航空がテルアビブとカイロ間を行き来することになった。なおエル・アル航空はその後廃止になり、エジプト航空は子会社のエア・シナイとして運航を今も続けているものの、イスラエルとの関係をあまり大っぴらにしたくないためか、他の航空会社のチケットのように普通に情報が公開されていないのが現状。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 入手できるのか?

 まずは最寄りのHISの店舗に行ってみた。すると発着地が両方日本国外の場合は海外発券扱いとなり、新宿本店の海外航空券スペシャリストデスクというところでしか対応できないとのことだった。

 

 ということで後日、新宿本店へ。店頭ではアロハシャツにレイを掛けた店員さんがハワイフェアを大々的にやっていた。海外発券の相談と伝えると細長い店内の一番奥の奥にある、ハワイブースとは打って変わって薄暗いスペシャリストデスクに通された。

 

 要件を伝えると、スペシャリストはすぐさま電話で問合せし始めた。今回は海外発券と言っても並みの海外発券とは違う。非公開の券である。「そんな航空券ないよ」と門前払いされることも想定のうちだったが、意外にも予約可能との回答が世界のどこかにいる敏腕エージェントから帰ってきた。

 

 こんなにあっさり買えるとは!と拍子抜けしかけたが、航空券自体4万円ほどかかり、さらに手数料に3万円ほどかかるという。たった1時間のフライトで7万円はあまりに厳しい。航空券自体が高いのはどうしようもないとして、手数料3万は高い。

 

 HISでの購入は最後の手段ということにして保留にした。

 

 

 

 

 

 

 他にいい手はないか?帰宅してひたすらネットで検索を繰り返したところ、複数の英語の口コミサイトに共通するメールアドレス(airsinai_tlv@hotmail.com @は全角→半角)が登場することを発見。テルアビブの一角にあるエア・シナイのオフィスに通じるのだという。仮にも国際線を就航する航空会社のメールがhotmailということがあるだろうか?おそるおそる英語でメールを送ってみたところ、すぐに購入可能との返信が来た。航空会社から直接買うので手数料は不要。ただしクレジットカード未対応で、搭乗3日前までに現金を直接持ち込むか、銀行から送金する必要があるという。旅程の問題から3日前までにテルアビブに到着するのは無理。よって銀行から海外送金することにした。

 

 

 

 

 

 

 

送金できるのか?

 いつも使っている銀行の新宿支店へ行ってみた。海外送金、というと2階の閑散としたブースに通された。いつもこんなところに連れて来られるな、とか、イスラエルに送金しようとしてる奴めちゃめちゃ怪しいな、とか思いつつ概要を伝えると、新人さんの勉強にさせてほしいということで数人に取り囲まれて詳しく聞かれた。

 

 で、ここから送金は可能だが海外送金というのは世界のどのルートを経由するかが分からず、

・手数料も合計でいくらかかるか分からず、

・手数料を上乗せして振り込んでもらうがいくら乗せるかは送金者が決め、

・もし足りなくても不足分だけ追加というのは難しく、

・振り込んだ金額自体もどうなるか分からずおそらく世界のどこかに消失するが、

・目安は8,000円あれば足りると思うがその保証は誰もできない

 というこの上なく心もとない内容だった。手数料8,000円でも高い上に足りなかった場合に困る。元の金がどこかに消えるって何だ、怖すぎ!

 

 

 

 

 

 

 ここも保留ということにして、代替案を探ったところ、楽天銀行であればネットから約2,200円でいけることが分かった。これも必ず足りる確証はなかった気がするが、3年半も前なので正直詳しくは覚えていない。ただいろいろ詳しく読んだところ大丈夫そうだったので楽天銀行で送金。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

入手成功!

数日後、航空券が送られてきた。

 

 

 

 

 いろいろ試した結果として思いが天に、いやテルアビブのエア・シナイのオフィスにhotomailと世界のどこかの金融機関を経由して届き、メール本文にベタ打ちしただけの簡素な航空券に辿り着いたことに感動した。

 

 

 

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  ↑↑↑航空券↑↑↑

 

 

 

 

 

 しかし、こんなんで本当に乗れるのだろうか。

 

 

 

 

 航空券購入は果たしたが再び不安に駆られたので、出発前にエジプトビザを取得することにした。

 

 エジプトはアライバルビザが取れる(2016年時点)のだが、世界一警備が厳しいと言われるテルアビブのベン・グリオン国際空港で出国時にアラブ行きのチケット、それも今日日QRコードも付いていないペラペラの紙で怪しまれないか気がかりで、到着後の書類が少しでもしっかり揃っていることで信憑性が増すのではと思ったのである。

 

 で、ビザ申請費用として約8,000円取られた。いろいろやり繰りしてもこういうところで結局金がかかるのね。

 

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(エジプトエジプトした像が立ち並ぶ代官山のエジプト大使館)

 

 

 

 

 

 

  ネットには「空港ではアナウンスが一切されない」「案内表示板には航空会社名も行先もなく、ただ"4D"という暗号のようなコードで表示される」「搭乗ゲートは当然一番端、というか機体が空港敷地の果ての目立たないところに駐機されている」「機体は白一色」などという情報が流布している。

 

 でもなんか楽しみなのはなぜだろう?事前情報が怪しいとその分いつの間にかわくわくしてしまう、という気持ちが分かる方は変態旅行者の素質が十分にあるだろう。

 

 

 

♯2 搭乗編【前編】 へ続く。